AI時代に変わるアメリカの教育

ドキュメンタリー映画”Most Likely to Succeed”

先日、早稲田大学のキャンパスで行われたこちらのドキュメンタリー映画の上映会に行ってきました。

”most likely to succeed”とは、直訳すると「成功する可能性が最も高い」という意味です。

昔、英語を勉強するために観ていた海外ドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」で、卒業が近い高校生の中から「最も美しい」「最もハンサム」などのカテゴリ別に人気投票で選ぶ際、Mr.”most likely to succeed”というカテゴリに主人公が選ばれていたというシーンがあったのを、この映画の題名を見て思い出しました。ちなみにその人気投票のカテゴリのタイトルは「ミスター”将来有望”」と訳されていました。

映画の趣旨は、AI時代の教育はどうあるべきか?という内容で、前半では、既存の学校教育のスタイルが前世紀に作られたもので、子どもたちが社会に出たときに役に立つスキルを教えられていないという問題提起をしています。

そして後半はサンディエゴにあるHigh Tech Highという公立高校を舞台に、子どもたちがチームでのプロジェクトを通して学びを深める様子を追っています。

大学に入るための勉強

前半でとても印象的だったのは、高校の数学教師が、「社会に出たときに役に立つ授業をしたい」と考えて学校や生徒に働きかけるのですが、そこで生徒自身からの抵抗にあう、というシーンです。

教師は「良い大学に入ることと、社会に出たときにちゃんとやっていけるスキルを身に着けることと、どちらが大切か」という問いかけをすると「大学に入れなくては意味がない。テストでいい点を取る方法が知りたい」と生徒が答えます。いわく、とにかく良い大学に行くことができなければ元も子もないから、と。

変化を呼び掛けている教師自身も、伝統的な教育を受けて良い大学に入学・卒業して今の教師の仕事に就いているため、生徒の親からも「でもあなたはその役に立たないかもしれない教育を受けて良い大学に入れたのではないですか」と言われているシーンがありました。

今まで経験したこともない時代に対応していくために変わらなければならないのに、それが難しいのはどこでも同じだなぁと感じました。誰も経験したことのない時代の到来を前にして、変わることを提唱している側も「これが最高のやり方です」ということを実績で示すことができないので、生徒や親にも変わることに対する恐怖があるのは当然かもしれません。

High Tech Highでの学び

私が12年住んでいたサンディエゴの学校なのでHigh Tech Highについては知っていましたし、学校のあるリバティ・ステーションというところの近所に住んでいたので見かけたこともありました。

その当時はまだ子どもたちが小さかったこともあり、どんな学校なのかはあまり知らずにいたので、今回の映画でその学びの中身を見て改めて「だから人気があるのか」と納得しました。

High Tech Highでは、宿題やSAT対策という、「普通」の高校に当然あるものがありません。科目の区別もはっきりしておらず、時間割もないような感じで、生徒たちはチームで「プロジェクト」にあたります。

先生たちも1年契約のみ。普通の学校よりも安い給料なのに多くの優秀な先生が集まるのは、この学校では先生に自由な裁量が与えられているからです。何をどのように、どれだけ時間をかけて教えるかが、先生に任されているのです。

普通の学校とは大きく違うやり方の学びが起こっているのですが、「テストの結果」といった目に見えるものがないために、やはり将来に対する不安を感じている親もいるようで、それもまた印象的でした。

「何を勉強したら良いですか?」

映画上映のあと、エグゼクティブ・ディレクターのTed Dintersmith氏との質疑応答とディスカッションの時間がありました。

そこで出てきたコメントのひとつとして、「とにかく大学に入る」というメンタリティでやってきても、いざ大学に入ったとたんに「何を勉強したいかわからない」とか「良い成績をとるにはどうすればいいか」という相談に来る生徒がいる・・・というものがありました。

映画のメッセージのひとつは「子どもは自分がやりたいと自ら興味をもっているものは、テストが終わったからといって忘れないし、さらに学びを続ける」というものでした。その点で、伝統的な学校システムでは、子どもたちの興味のあるなしに関わらず「カリキュラムだから」という理由の強制された学びの結果、テストの数か月後には学んだことを何も覚えてないという無駄も起こっています。

何よりも、そのような形の教育では、子どもたちが自分の興味や関心を自ら発見し、育んでいく余地が限られているので、前述の「何を勉強したらよいのか」という問いにつながってくるのです。

Ted Dintersmith氏は、この状況を変えるには、大学のアドミッション・プロセスを変えていかなければならないと訴えていました。実際に、全米を回ってそのような働きかけをしているそうです。

パートナーと教育に関する価値観を共有すること

我が家の子どもたちは小学校の高学年が2人、低学年が1人という学齢です。これからまだ中学・高校と進んでいくのですが、今後、どのような学校に子どもたちを入れるべきか、ということを考えるにあたり、この映画はとても大きなインパクトがありました。

実際には、このHigh Tech Highのような教育が、AI時代に対応できる人材を輩出するためにどのような効果をもっているのかは、もう少し時間がたってみないとわかりません。映画でも最後にそのように結ばれています。

でも、現状で、例えばアイビーリーグのような優秀な大学を卒業しても、それに見合った仕事に就けるかどうかわからないという状況があります。実際に、Ted Dintersmith氏は「この状況を変えていかなければ、アメリカの民主主義自体が危機に瀕する」と、2016年の大統領選挙を引き合いに出して語っていました。日本でもアメリカでも、とにかく良い大学に入りさえすればよい会社に入れる、そうすれば一生安泰・・・という時代ではなくなったことは明白です。

現実に目を向ける意味でも、まずこの映画を夫にも見てもらって、今後について話し合っていきたいと感じました。

今回のドキュメンタリー映画はFutureEdu東京の主催で行われました。今後の上映会の情報はこちらのFacebookグループをチェックしてみてください。

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