M.J. Hegarのキャンペーン動画
数日前に友人がFacebookでシェアしていた動画を目にしました。
”Doors”というタイトルの3分ほどのビデオクリップは、テキサス州の下院議員に立候補しているM.J. Hegarという女性のライフストーリーを描いたもので、彼女のキャンペーン動画になっています。
M.J.Hegarは空軍のヘリコプター・パイロットをしていました。動画の冒頭では、彼女が家族と暮らす家に飾ってある軍のヘリコプターのドアが映り、シーンはアフガニスタンの戦場へ。負傷した兵士を救助する作戦でヘリを操縦していた彼女は、タリバンに銃撃されつつも飛び立ち、そして撃墜されます。
そこから話は彼女が少女だった時代に戻り、彼女の人生に現れた数々の「ドア」というテーマでストーリーが語られていきます。
人生における「障壁」の象徴であるドア
小さなころからパイロットに憧れていた彼女は、やがて空軍に入隊し、飛行訓練学校への狭き門をくぐりぬけます。そしてアフガニスタンに3回も赴きますが、最後は前述の攻撃により負傷。テキサスに帰り、医療業界で仕事をしながら、結婚して家庭を築きます。
でも彼女はそこで満足しませんでした。「女性は陸上での戦闘に加わっていはいけない」というルールが憲法に違反するとしてアメリカ国防省を訴え、勝訴。この軍の規律は覆されたのです。
この訴訟のために、議会でロビー活動をした際に、自分の住む地域の代表であるはずのカーター議員から「あなたはドナー(寄付者)ではない」と言われて会ってももらえなかったという経験をしました。
そこで、このたび彼女はその議席を目指して立候補することを決意し、この動画を作ったのです。
動画の最後はこう締めくくられています。
”Congressman Carter hasn’t had a tough race in his entire career. So, we’ll show him tough, and then we’ll show him the door.”
(カーター議員はいまだかつて接戦の選挙戦を経験したことがありません。私たちは彼に激しい選挙戦がどんなものか味合わせます。そして選挙に勝って、彼の議席からはお引き取り願います)
”We’ll show him the door”
“Showing (someone) the door”とは「帰るように促す」あるいは「追い出す」という意味です。現在その議席にいるカーター議員は、共和党支持の強い地区では接戦になるような選挙を経験したことがありませんでした。
M.J.Hegarは、共和党支持の強いその地区で彼に挑戦を挑んでいるのです。
この動画が公開されるとたちまち大きな話題を呼び、CNNなどのニュース番組にもひっぱりだこになりました。選挙戦を戦うためのキャンペーン動画であるだけでなく、これは彼女の存在を世の中に知らしめる大きな一歩になりました。
高いクオリティの動画にも称賛が寄せられ、ミュージカル”Hamilton”のクリエイター Lin Manuel-Mirandaは「史上最高のキャンペーン動画だ」とツイッターで大絶賛。
数々の「ガラスの天井」を後に続く女性のために破って来たM.J.Hegarですが、共和党支持の強いテキサス州では決して有利とは言えません。
でも、この動画は選挙戦のための広告以上の意味を持っています。ここまでの大きな話題になったことで、彼女という存在は広く世に知れ渡り、既存の古いシステムや価値観に挑み、より生きやすい世の中にしていくための新たな女性のロールモデルになりました。
選挙に立候補するということは、家族をも巻き込んだ長丁場の闘いに挑むということです。結婚して子どももふたりいる彼女は、配偶者の強いサポートがあってこその今回の出馬であることも興味深い点です。
選挙の結果がどうであっても、彼女の今後に注目していきたいと思います。