学べるスキル
前回「効果的なセルフトークの方法」という記事を書いたところ、多くの反響がありました。
この記事で紹介した”Self-Distancing”という手法は、比較的シンプルで誰にでもできるものです。
今回は、この手法を別のシチュエーションで使う方法をご紹介します。
日常的に起こり得るちょっとした出来事、例えば運転中に横入りされたとか、道を歩いていてぶつかってきた相手が謝りもせずに逃げた・・などが起こったとき、「自分は不当に扱われた」と感じて嫌な思いになるのが普通の反応です。
そのことについて何度も思い返してさらに腹を立てたり、悲しくなったり・・・というのは誰にでも経験があるのではないでしょうか。
これを英語ではrumination and recrimination と言います。ruminationは反芻すること、recriminationは(自分を非難した・傷つけた相手を)非難し返すこと。
要は、起こった出来事についてぐるぐると考え続けて、相手に対する批判の気持ちを募らせることです。人によってはこのサイクルにはまりこんで、実際に起こった物事が頭の中でずっと大きなことに育ってしまうという場合もあるでしょう。
Self-Distancingで客観的に振り返る
“Four ways to gain perspective on negative events”という記事では、Self-Distancingがなぜこのような場合に効果的かというリサーチが紹介されています。
「自分が不当に扱われた」と感じるような出来事について考えようとすると、ともするとまた感情が刺激されて、そのときに感じた嫌な気持ちを再度味わうことになります。
これは self-focused perspectiveという、いわば「自分視点」で物事をみているときに起こる現象です。
一方で、Self-Distancingの手法で出来事を振り返ってみると、より客観的になることができます。リサーチによれば、この客観的な視点から振り返ることで、感情が刺激されることはより少なくなり、身体のストレス反応も少なくなるそうです。このため、ネガティブな感情を処理する過程で、より生産的な振り返りをすることが可能になります。
その結果、怒りの感情や、それに基づく攻撃的な言動は抑制され、人間関係の改善にも役だつ・・・と記事には書かれています。
4つのステップ
この記事で紹介されている4つのステップは次のような感じです。
①その出来事をみている傍観者をイメージする
ネガティブな出来事(同僚との喧嘩や車の横入り)を思い返すとき、その場にいた全く利害関係のない第3者の視点から見ていると想像します。
②「私」ではなく、3人称、あるいは自分の名前を使う
出来事を反芻するとき「私がこうした」ではなく、「彼女は」あるいは「XXは(自分の名前)」を使ってその状況を描写することで第3者の視点を創りだします。
③書いてみる
出来事をただ頭の中で考えるだけでなく、紙に書くほうがより効果的に感情を処理することができます。リサーチによると、客観的な視点で振り返ることができている人のライティングでは、ネガティブな感情を表す言葉を使うことが少なく、「なぜこうなったか」という、より分析的な言葉を使うことが多いそうです。
④未来の自分を想像する
この出来事について「1週間後にはどう感じているか」「10年後にはどう感じているか」という質問をすることで、今起こったばかりの出来事や生々しい感情から距離をとることができます。
メンタル上のタイムトラベルをすることで、「何事も永遠には続かない」というシンプルな事実を思い出すことができ、とげとげしている気持ちをやわらげるのに役に立つこともある・・と記事には書かれています。
パートナーとの喧嘩をいつまでも引きずっていて、時間の経過とともに関係が悪化してしまうということがあるとしたら、このような手法でその時々で出来事と向き合い、昇華させていくことは、長い目でみても有意義なことではないでしょうか。