「自分の人生は自分でコントロールする」
アマゾン・プライムで目にした”Maggie’s Plan”(邦題「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」という映画を観ました。
予告編にある通り、映画は主人公マギーが「子どもがほしい」と思い立つところから始まります。
男友達から精子の提供を受けて自力で母親になろうとするマギー。同じ時期に出会った作家志望のジョンと親しくなり、恋に落ちる・・・というストーリーです。
ジョンを演じるのはイーサン・ホーク。この映画ではわりとダメな男を演じています(この日本語版の予告では「モテ男」という設定のようですが…)。
ストーリーは数年後にとび、既婚者だったジョンは離婚してマギーと結婚し、ふたりの間には3歳の娘がいるということになっています。
かねてからの望み通り母親になり、しかも結婚もして、期待した以上の幸せが手に入ったかのように見えるマギー。
「私が救ってあげる」の間違い
しかし現実の結婚生活はここからが始まりです。
そもそも彼女がジョンに惹かれていったのは彼の書く小説を読んだから。そして、いかに元のパートナーのジョーゼットが「鬼嫁」だったかということを、彼から聞かされていて、「私が救ってあげたい」という気持ちが芽生えたことも作用しています。
以前の結婚ではパートナーに家事や育児を押し付けられ、十分に書く時間をとれなかったということから、マギーは結婚後は「あなたは本を書いて。私が稼ぐ(そして家事育児もする)」という役割分担を提示したようです。
でも3年経っても小説は終わる気配がなく、さらにジョンは別れたはずのジョーゼットともしょっちゅう電話で連絡をとりあっています。
夢見がちなシングルマザーに育てられ、12歳から生活能力をつちかってきたマギーに、ジョンは全面的に頼りきっています。1時間だけ子どもをみてくれるように頼んで電話会議に臨むも、彼自身も「出版社からだ」と電話に出ている隙に、3歳のリリーがおもちゃをトイレに落とすなど、散らかしてしまいます。
自分の仕事を後回しにして彼の仕事を優先してあげても、彼は結局ジョーゼットの対応に追われて仕事のミーティングに行かないなど、私がマギーだったらぶちきれていると思う状況で、彼女も彼女なりにフラストレーションをぶつけているシーンがありました。
極めつけは、ジョーゼットが出張で留守にする間、ジョンとジョーゼットのふたりの子どもたちの世話をマギーがしなければならないこと。ジョンがとことん非協力的で、このシーンをみてぞわぞわする既婚女性は多いのではないかと感じました。
「返品します」
ジョンに愛想をつかしたマギーは、あるきっかけでジョーゼットと会う機会があり、彼女はまだジョンを愛していると確信。彼女にジョンを「返す」というプランを思いつき、実行に移すというところでストーリーは後半のヤマ場に向かっていきます。
*ここから先はネタバレを含みますので、これから映画を観てみたい人はご自身の判断でどうぞ*
この映画で一番印象に残ったのは、ジョンがジョーゼットとふたりで学会に出るというシチュエーションで、お互いに正直な心のうちを明かすシーンでした。
「マギーは小説を書く僕を好きになったんだ(だからやめることができない)」という彼に、ジョーゼットは「本当に愛しているなら、小説家でも掃除夫でもかまわないはず」と答えます。この言葉に心を打たれるジョン。
人が人を好きになるきっかけはいろいろありますが、私はいつもそれはただの「フック」のようなものだと考えています。
ふたりを強烈に結びつける共通の趣味や、憧れや、出会いの形そのもの・・・人によってはそれが体の関係だったりするでしょう。
でも、そうした期間を経て長い間を一緒に過ごしていくうちに、そもそも出会うきっかけになった要素は薄れていくこともあり得ます。このストーリーの中のジョンが「やはり自分は小説家に向いてない」と悟ったように。
そうなるまでの間に、その「フック」で始まった強烈な引力を超えた愛情をふたりが育んでいるかどうか。その点が、短命で終わってしまう結婚と長く続く結婚の分かれ目だと思います。
(*観客から注釈を加えるとすれば、この「小説を書かないとマギーに捨てられる」というのもジョンの思い込みでしかなく、実際には彼が家事や育児、そしてお金を稼ぐところまでをすべてマギーに頼りきっており、しかも彼女を大切にしていないから愛想をつかされているのですが… もし彼が小説を書くのをやめてもっと結婚生活を大事にしていたら、こういう展開にはなっていないはずです)
ジョーゼットと一夜をともにしたジョンはマギーの元に帰り、すべてを告白。ところが、あるきっかけで、ジョンはこのジョーゼットとの一件がマギーとジョーゼットの計画によるものだったと知ります。
ここで、ジョンがマギーに対して「元嫁と一緒になって自分をはめるなんて!自分は結婚生活にコミットしていたのに!!」と怒りをぶつけるシーンがあるのですが、これも、本当にコミットしていたら、いくら周囲のセットアップがあったところで、元のパートナーと一夜をともにしないでしょう!と笑いがこみあげてきました。どこまでいっても自分の責任を認めない男です・・・
登場人物のなかでは、私はジョーゼットのキャラクターがとても気に入りました。ジョーゼットを演じるのはジュリアン・ムーア。デンマーク人という設定でアクセントのある英語もよく似合っていました。
おそらく男女でかなり評価が分かれるのではないかというこの映画。アマゾン・プライム会員の方は現在無料で視聴できます。