「夫に嫌われたら終わり」という意識

バリキャリから駐在妻になった

「夫に嫌われたら終わり」と気付き震撼した日という衝撃的なタイトルの記事を読みました。

記事を書いたのは中野 円佳さん。1984年生まれの東大卒のジャーナリストで、著書に「育休時代のジレンマ」などがあります。

記事の冒頭では、輝かしい職歴を持ち、バリバリと働いていた彼女が、配偶者の転勤によりシンガポールで「駐在妻」になったときに体験した心境の変化について書かれています。

例えば、収入が激減したこと、チャイルドケア事情で自由になる時間が1日2時間くらいしかないこと、自分の収入をすぐに現金で引き出せないことなど。

日本では自分の収入で好きなようにやりくりしていたのに、「夫のお金」でカフェラテを飲むのさえ躊躇してしまう。そもそもシンガポールにいられるのは夫の仕事があり、滞在ビザをもらえているから。すべてが「夫頼み」という状況。

しかも、経済面で「対等」でなくなったために、家事や育児の面でも、パートナーと対等でなくなってしまった・・・と、苦しかった当時の心情を吐露しています。そこで出てきたのが

自分がここに住んでいられるたった1つの理由が、「夫の愛を確保できていること」なのだと感じたこと

夫と喧嘩して「お前なんかいらない」と言われたら、シンガポールにいることすらできなくなる。経済的な自立がないというのがものすごく不安な状況だと震撼した・・・と書かれています。

内面化された価値観は誰のもの?

「仕事もしていない、家事も苦手な自分の存在価値は?」と悩んでいる際に、中野さんは繰り返し「夫に何か言われたわけではないが」と書いているので、それを額面通りに受け取るならば、パートナーの言動から「夫に嫌われたら終わり」と思ったのではなくて、他の人の価値観を内面化しているような印象を受けました。

「離職によってアイデンティティの一部または全部を失った女性たちが、自分の価値を見いだそうとするため家事労働にのめり込むのではないか」

「専業主婦の皆様が毎日おきれいにされているのはそういうことなの? 愛されて、今の生活を保持するためなの?」

とも書かれています。

私も結婚してアメリカに移住するまでは国連でバリバリ働いていましたが、移住後は無職。それこそコーヒー1杯でも「彼が稼いだお金」で買っていたし、彼女のようにアイデンティティ・クライシスも体験し、それが後に「国際結婚一年生」を書くきっかけにもなりました。

でも、その当時も家事労働にのめり込んだ記憶はありませんし、「夫に嫌われたら終わり」と思ったこともついぞありませんでした。思うように仕事が見つからずに悶々としていたことは確かですが、そもそも仕事を辞めてアメリカにいるのは、彼と家族になって、その時点では彼のキャリアを優先すると決めたから。

喧嘩したくらいで「お前なんかいらない」という人でないことはわかっている(と思っていた)ので、退職&移住というリスクをとる決意をできたのかな、と振り返ってみて思います。

兄との会話

ただ、国際結婚のカップルで、同じように移住をきっかけに無職になった女性が、思っていたようなパートナーではなかったために非常に苦しい状況に追い込まれているというがいることもたびたび見聞きしました。

そして、文字通り「夫に嫌われて関係が終わった」という状況に陥った人もいました。一緒にふたりで子どもを育てていたのに、ある時突然に人が変わってしまって離婚ということも。

ハーグ条約があるので「子どもを連れて日本に帰ります」ということもできない。アメリカでシングルマザーになり、ゼロからやり直したというケースもあります。「国際結婚一年生」を書いたのは、そういう状況になる可能性がゼロではないと、これから結婚する人に知ってほしかったというのも動機のひとつでした。

自分もそうなったかもしれないのだから、もう少しリスク管理を考えるべきだったのでは?と振り返ったときに思い出したのは、彼と結婚するとなったときに兄と交わした会話です。

兄は「(私たちの結婚を)応援しているんだけど」と言いながら「何かあったときにはどうするか?」と聞いてきました。仕事を辞めて移住するので、いざというときにどうするか考えているのかという質問です。

私は「貯金もあるし、まだ若い(当時28歳)からやり直せると思う。何かあったら親を頼る」と答えたのを覚えています。

コミットメント、信頼、なんとかなるという精神

今から考えれば、兄とのあの会話で「そういうこともあり得るな」という意識をもちつつ、もし彼とうまくいかなくなり、最悪の場合に離婚になったとしても、自分は大丈夫、なんとかなるという気持ちになったような気がしています。

もちろん、彼とはプレマリッジ・セミナーも一緒に受けていて、コミットメントのある関係ということは理解していました。また「行動が予測できる」という意味での信頼関係もありました。

でも、最終的に自分がしっかりしていれば、「人を頼る」という選択肢も含めて、どんな状況にも対応できるという自信のようなものがあったから、傍から見ればリスクの高いと思われることに飛び込めたのかもしれません。

結婚には勢いが必要な部分もあるので、あまりあれこれ考えすぎてしまうと、怖くて一歩を踏み出せなくなってしまいます。

「夫に嫌われたら終わり」という認識は、パートナーシップという観点から言うと、その気持ちをもちつづけながら生活するのは健全ではないと感じますが、かといって盲目的に相手を信じて現状に甘んじるだけというのもリスクが高すぎるでしょう。

この点はもう少し深堀りするべきテーマなので、また別の角度から考えていきたいと思います。

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